2014-10-01から1ヶ月間の記事一覧

雪が降りそうだった。灰色の雲は厚いのに、不思議と暗くはない。目に優しい霞んだ色の景色が、自分の吐く息で濃度を増した。冬だ。 市営地下鉄の終点を降り、地上への長い階段の前。僅かに迷ってから、隣のエスカレーターを歩いて上がる。時間短縮という名…

亡き祖母が好きで集めていた着物の中に、酷く綺麗な十二単を見つけた。驚いたのは、その十二単が子供用の丈であったこと。そして俺宛の手紙が添えられていたこと。 手紙の中で祖母は持っていた着物を全て俺へ譲ることを述べ、自分亡き後の俺の幸せを願って…

コートに立てなくなってどれだけ経つのかを未だによく考える。思考の船は白く濁った記憶の海を渡り終える前にずぶずぶと沈んでいく。眠りに落ちる前はいつもこうだ。そしてこのまま、あの夢をみる。まるで意識だけ異世界に飛ぶような、現実味の無い夢を。 …